飲食店だけではありませんが会社で働いていた人が独立開業をすると、今まで会社が面倒を見てくれていた、税金、保険、年金などの手続きや支払いを自分でやらなければなりません。
今回は飲食店を開業する時の医療保険についてです。ここで言う医療保険とは、民間の医療保険のことではなく、病院で健康保険証を出すと、自分の負担が3割で診察をしてくれるあれのことです。
会社を辞めて飲食店を開業する人は「国民健康保険に入る」「健康保険を任意継続する」「家族の健康保険の扶養に入る」のどれかにになります。
もくじ
健康保険と国民健康保険の違い
会社を辞めて、飲食店を開業する人が入る医療保険の話をする上で、まず理解しておきたいのが健康保険と国民健康保険の違いです。
国民皆保険(こくみんかいほけん)という言葉があります。これは誰しもみんな何らかの医療保険に入らなければいけませんよ、という意味です。保険に入っている人で保険料を出し合い、健康な人が病気や怪我をした人の医療費を負担することで、みんなが安心して治療を受けられるという制度です。
”何らかの医療保険”というのが、「健康保険」と「国民健康保険」になります。”国民”が付くか付かないかの違いなので、ややこしいのですが、健康保険と国民健康保険は別の医療保険です。
健康保険とは、いわゆるサラリーマンと呼ばれる会社勤めの人が加入する医療保険のことです。保険料は会社が半分、自分の給料からの天引きで半分の折半で支払っています。
社会保険という言葉は、この健康保険と厚生年金のことを指します。会社員は一般的に「社会保険に加入していて、社会保険料を払っている」は「健康保険と厚生年金に入っていて、健康保険料と厚生年金保険料を払っている」と同じ意味です。
もう一方の国民健康保険は、個人事業主が入る医療保険のことです。飲食店を開業する個人事業主は国民健康保険に加入することになります。(会社員時代の健康保険の継続できる場合や家族の健康保険の扶養に入れる場合もあります 後述)
個人事業主が国民健康保険に加入する場合
国民健康保険は他の保険に入っていない人すべてが入る医療保険なので、会社を辞めて健康保険から抜けたら、手続きをするしないに関係なく国民健康保険に入っていることになります(国民皆保険)。
この後、紹介する2つの手続きをすれば国民健康保険に加入しないことも選択できます。ですが、開業して個人事業主として飲食店を続けていくのであれば、最終的にはこの国民健康保険に入ることになります。
国民健康保険に加入するには
会社を辞めて健康保険を抜けると国民健康保険に入っていることになるとはいえ、切り替えの手続きは必要になります。
【手続きをする場所】
住んでいる市区町村の役場の国民健康保険窓口
【手続きの期限】
会社を辞めてから14日以内
【必要な書類】
健康保険資格喪失証明書(勤めていた会社から発行されます)
印鑑
マイナンバー(個人番号)が分かり、身元確認ができるもの
マイナンバーと身元確認に必要な書類
①か②のどちらかが必要になります。
①マイナンバーカード マイナンバーカードはそれだけでOK
②マイナンバーカードがない場合は、マイナンバーがが確認できるもの(マイナンバー通知カード ・マイナンバーの入った住民票など)を1つ+身元が確認できるもの(免許証・パスポートなど)を1つなど
健康保険の任意継続とは?
上の国民健康保険の説明のところで”会社員時代の健康保険の継続を選択できる”と書きましたが、それが健康保険の任意継続(以下、任意継続)です。
任意継続とは、条件を満たしている人が手続きをすればサラリーマン時代と同じ健康保険を2年間継続して入ることができる制度です。
▶任意継続できる人の条件
■2ヶ月以上社会保険に加入していた
■会社を辞めてから(健康保険の資格がなくなってから)20日以内に申請
会社を辞めてから20日以内に申請をしなければ健康保険を継続することができません。この20日以内は厳守です。
▶健康保険の任意継続をやめる時
■2年間の保険期間が過ぎたら
■保険料の納付期限を1日でも過ぎたら(次の日から資格を失います)
■就職して社会保険(健康保険、厚生年金)に入ったら
任意継続で健康保険を継続できるのは2年間なので、2年経ったら抜けることになります。抜けたらその後は飲食店の個人事業主は、国民健康保険に入ることになります。
保険料の納付期限を過ぎてしまったら、その次の日に任意継続から抜けることになります。継続はおしまいです。就職して社会保険(健康保険と厚生年金)に入ったら、当たり前ですが健康保険になるので任意継続はおしまいです。
▶保険料
任意継続の保険料は全額自己負担です。
サラリーマン時代の健康保険を継続できるのが任意継続ですが、サラリーマン時代のように会社が半分持ってくれるわけではありません。なので、単純にサラリーマン時代の2倍の保険料を全額自分で負担することになります。
それでも、国民健康保険より保険料が安い場合もあるので、2年間だけでも任意継続に入る人がいるのです。
健康保険を任意継続するには
【手続きをする場所】
住んでいるところの協会けんぽ支部
会社が加入していた健康保険組合
【手続きの期限】
任意継続するには、退職してから20日以内に
【必要な書類】
任意継続被保険者資格取得申出書
健康保険には2種類あって、健康保険組合加入の健康保険ならその健康保険組合が窓口になります(主に大企業)。国が運営している健康保険に会社が入っているなら、自分が住んでいる各都道府県の協会けんぽ支部が窓口になります(主に中小企業)。
協会けんぽについて
任意継続は退職してから20日以内に手続きをしなければ、継続することができません。20日は厳守です。保険料の納付期限も1日でも過ぎたらその次の日から資格がなくなるほど期日には厳しいです。
家族の健康保険の扶養に入るには
家族に社会保険(健康保険と厚生年金)に入っている会社勤めの人がいる場合、その扶養に入ることができます。扶養というのは簡単に言うと”養っている”ということです。
例えば、夫婦ふたりで会社に勤めていて、旦那さんが会社を辞めて飲食店を開業する場合は、旦那さんの収入が一年間で130万円を超えるまでは奥さんの会社の健康保険の扶養家族として医療保険に入れます。
健康保険の扶養家族になれば、これまで通りの医療保険が受けられて、旦那さんは保険料を払うこともなければ、奥さんの会社から天引きされる健康保険料が上がることもありません。
ただし、飲食店を開業して年収が130万円を超えると、健康保険の扶養に入れなくなるので、その時点で、個人事業主が入る国民健康保険に切り替えることになります。
収入と所得の違い
ここで気をつけなければいけないのが、収入と所得の違いです。収入とはイコール売上のことです。所得とは売上から経費を引いたものです。
多くの経費のかかる飲食店の場合、開業した年の所得は低いですが収入(売上)となると、130万円はすぐに超えてしまいます。会社を辞めてから開業するまでの間だけ、扶養に入ることができるかもしれません。
会社の加入している保険組合、協会によって、年間の収入が130万円までというところもあれば、所得が130万円までというところ、個人事業主は収入が0円でも扶養に入れないというところもあるので、家族の勤めている会社に早めに相談することをおすすめします。
健康保険の任意継続と国民健康保険どっちが得?
家族の健康保険の扶養に入れれば、保険料はかかりませんが、誰でも選択することができるわけではありません。
ここでは任意継続と国民健康保険の保険料の違いについてざっくりと説明します。
健康保険の任意継続の保険料は、会社を辞める時の収入(標準報酬月額)によって決まります。上限はありますが、収入が多ければ保険料の負担額も多くなります。そして、会社員の頃とは違い全額自己負担なので会社員時代の保険料の倍に近い金額になります。
任意継続の場合、扶養家族がいても保険料は変わりません。同じ収入であれば、自分ひとりしかいない単身者でも、奥さんと子供2人の4人家族でも、保険料は一緒です。
それに対して、国民健康保険の保険料は、前年の所得によっても変わってきますが、住んでいる地域によって保険料率や計算方法も違うことで保険料も大きく変わってきます。更に国民健康保険には扶養という考え方というか扱いがないので、家族の人数分の保険料がかかります。
任意継続と国民健康保険ではどちらの保険料のほうが得になるのかというのは、会社員時代の年収や住んでいる地域、家族構成などによって変わってきます。扶養家族が多い場合には任意継続のほうが得になる可能性が高いですが、正確な保険料を比べるのであれば、住んでいる所の役場で早めに相談してください。任意継続の手続きの期限は(会社を辞めてから20日以内)厳しいので、どっちが安いかの検証に時間がかかりそうなら、とりあえず任意継続の手続きをするのも一つの方法です。
国民健康保険への切り替え手続きをしないとどうなる?
日本では、みんな何かしらの医療保険に入らなければいけないという国民皆保険になっています。会社を辞めて健康保険から抜けた人は、自動的に国民健康保険に加入していることになります。上で紹介したような任意継続や家族の健康保険の扶養に入る手続きをしなかった場合は、自動的に国民健康保険に入っているのです。
国民健康保険は、入るかどうかという選択できるものではありません。
なので、国民健康保険への切り替え手続きをしなかったとしても、保険料を遡って請求されます。切り替えの手続きはしたものの保険料を滞納した場合も同じです。放置しておいた保険料を払わなくていいことにはなりません。再三の請求にも応じなかった場合には預金や財産の差し押さえにまでなります。
ちょっと歯医者に行って医療保険に入っていれば3000円で済むところが、入っていないと10000円になるのです。これから飲食店を自分で開業しようとする人は体が資本です。体調管理も仕事のうちです。いち事業主として国民健康保険への切り替え手続きをして保険料を納めていきたいものです。
切り替え手続きにしても滞納にしても、放置してしまうのが一番いけません。国民健康保険料が払えないほどの経済状況になったら、まずは役場に相談に行きましょう。